公開対象 / 安全性

本記事は MRI / 4D Flow / 統計 の教育目的で作成された一般化された解説です。特定患者、施設、製品仕様、非公開 WIP の代替ではありません。

まず一言で

「2 群の cardiac index に差があるか」「3 vendor の T1 値が違うか」「治療前後で LV mass が変わったか」— これらすべては 群間比較 (group comparison) という同じ統計問題に帰着する。だが「t 検定でいいか」「ANOVA でいいか」「ノンパラに逃げるか」の判断は、たかが 2-3 個の質問で決まるのに、論文では誤用が後を絶たない。

最も多い 3 つの誤用は: (i) paired データを independent t 検定で扱う (test 自体が成立しない)、(ii) 多群を pairwise t 検定の繰り返しで処理する (Type I 過誤膨張、ANOVA の存在意義そのもの)、(iii) Welch's t を default にせず、Student の等分散 t を使い続ける (等分散仮定は実務上ほぼ検証不能で、Welch が安全側)。

本稿では、Student の t 検定 (1908) から始まり、Welch (1947) / Mann-Whitney U (1947) / Wilcoxon signed-rank (1945) / Fisher の ANOVA (1925) / Tukey HSD (1949) / Dunnett (1955) / Benjamini-Hochberg FDR (1995) まで、群間比較の道具箱を 問いから道具へ の一筋線で整理する。読者が「この研究デザインなら、この test の、このバリアントを、これだけ補正して使う」と判断できる状態を目標とする。MRI 定量 (Volumetry / T1 mapping / PC-MRI / 4D Flow) を文脈に置く。

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1. 群間比較の決定木 — まず 3 つの質問

群間比較 test 選択 master decision tree — 群数 / 独立対応 / 分布の 3 質問で 8 cell に navigate
図6. 群間比較 test 選択 master decision tree — 3 質問 (群数 / 独立対応 / 分布) で 8 cell を navigate する master flow

群間比較 test を選ぶときの最小限の質問は 3 つ:

1. 群は 2 つか、3 つ以上か (2 群なら t 系 / Mann-Whitney 系、3 群以上なら ANOVA 系)

2. 群は独立か、対応 (paired) か (同一被検体の pre/post か、別被検体か)

3. データは正規に近いか、ロバストに非正規か (連続量 + n ≥ 30 ならパラメトリック、それ以外は要検討)

これら 3 つを掛け合わせると 8 cell に分かれる:

群数独立 / 対応分布適切な test
2独立正規 (or n ≥ 30)Welch's t 検定 (default 推奨)
2独立非正規Mann-Whitney U 検定 (Wilcoxon rank-sum)
2対応差が正規Paired t 検定
2対応差が非正規Wilcoxon signed-rank 検定
≥3独立正規 + 等分散One-way ANOVA + post-hoc
≥3独立正規 + 不等分散Welch's ANOVA + Games-Howell post-hoc
≥3独立非正規Kruskal-Wallis + Dunn post-hoc
≥3対応正規Repeated-Measures ANOVA (sphericity 補正) or Mixed-effects model
≥3対応非正規Friedman 検定 + 後段非パラ post-hoc

「正規かどうか」の判定は §7 で扱うが、原則として 連続量で n ≥ 30 ならパラメトリック (CLT で頑健)、それ以外は QQ plot + Shapiro-Wilk + 文脈で判断する。「Shapiro-Wilk p > 0.05 だからパラメトリック OK」という機械的判定は §7.2 で警告する。

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2. Student の t 検定 — 1908 年の原典と 3 つのバリアント

t 分布が df 値で形を変え、df=∞ で正規分布に収束することを示す重ね合わせプロット
図1. t 分布 vs 正規分布 — df による形状変化 — Student の t 分布が小サンプルで正規分布より裾が重いこと、df → ∞ で正規に収束することを可視化
Welch's t と Student の pooled t における SE 計算の差を等分散 / 不等分散 2 ケースで対比
図2. Welch's t vs Student's pooled t — SE の差 — 等分散仮定下と不等分散下で SE の計算が違うこと、Welch が頑健なことを可視化

2.1 歴史と central insight

t 検定 は William Sealy Gosset (筆名 Student) が 1908 年に *Biometrika* に発表した。Guinness ビール醸造所での品質管理で「小サンプル ($n < 30$) からビールの均質性を判定する」という現場問題から生まれた。Gosset 以前は「サンプルが大きければ正規分布で近似」が当然視されていたが、Gosset は「標本標準偏差 $s$ で正規化した統計量は、$n$ が小さいと正規分布から外れる」ことを発見し、現在 t 分布 と呼ばれる分布を導出した。

中心的な数式 (one-sample t):

t = (x̄ − μ₀) / (s / √n),   df = n − 1

ここで は標本平均、μ₀ は帰無仮説下の平均、s は標本標準偏差、n はサンプルサイズ。df = n − 1 という自由度の概念も Gosset の貢献である (1 つのパラメータ を推定したことで 1 自由度を失う)。

2.2 Two-sample independent t (Student の等分散版)

2 群 $A$ ($n_A$ 人) と $B$ ($n_B$ 人) の平均を比較する古典版:

t = (x̄_A − x̄_B) / [ s_p · √(1/n_A + 1/n_B) ]
s_p² = [ (n_A − 1)·s_A² + (n_B − 1)·s_B² ] / (n_A + n_B − 2)
df = n_A + n_B − 2

s_ppooled standard deviation で、両群の分散が等しいと仮定して合算したもの。

仮定: (a) 各群が独立、(b) 各群が正規分布、(c) 両群の分散が等しい (homoscedasticity)

問題は (c) である。実データで等分散かどうかは Levene test で検定するが、Levene 自体の power が小さく、n が小さいときは「等分散が棄却されないだけ」で実際は不等分散というケースが頻繁にある。等分散の仮定が破綻すると、Student の t は Type I 過誤率が名義 5% から大きく外れる (極端には 8-15% まで膨張) ことが知られている (Ruxton 2006, Delacre et al. 2017)。

2.3 Welch's t (1947) — 不等分散対応の現代 default

Welch (1947) は等分散仮定を取り除いた t を提案した:

t = (x̄_A − x̄_B) / √( s_A²/n_A + s_B²/n_B )

自由度は Satterthwaite 近似 で計算:

df = ( s_A²/n_A + s_B²/n_B )² / [ (s_A²/n_A)² / (n_A − 1) + (s_B²/n_B)² / (n_B − 1) ]

この df は通常 non-integer になり、n_A + n_B − 2 より小さい (= conservative)。

現代的推奨: 「2 群独立比較の default は Welch's t」。理由は 3 つ:

1. 等分散仮定が成立するときも Welch の power loss は ≤ 1-2% で実質的に無視できる

2. 等分散が破綻するときの Type I 過誤膨張を Welch は防ぐ

3. 「等分散を Levene で確認してから Student」というフローは「Levene が detect できないだけ」のリスクを残す

Ruxton 2006 (*Behav Ecol*)、Delacre 2017 (*Int Rev Soc Psychol*) は Welch を default 推奨する代表的論文。R の t.test() のデフォルトも var.equal = FALSE (= Welch) であり、Python の scipy.stats.ttest_ind(equal_var=True) を明示的に書かない限り Welch である (scipy ≥ 1.xequal_var default は True なので注意)。

2.4 Paired t (対応のある t)

同一被検体の pre/post、左右、observer 1/2 のような対応データでは、ペア差 d_i = post_i − pre_i を作り、その差が平均ゼロかを one-sample t で検定する:

t = d̄ / (s_d / √n_pair),   df = n_pair − 1

ここで n_pair はペア数 (= 被検体数)、s_d はペア差の SD。

致命的誤用: 「paired データを独立 t で処理する」。これは within-subject correlation (例: pre と post の相関) を無視して分散を過大評価することになり、power が大きく下がる (= 差を見逃す)。逆に「独立データを paired として処理する」はそもそも実行不能 (ペアを定義できない)。

Paired t の仮定は「ペア差が正規分布」であって、元の pre / post が正規である必要はない。例: pre と post がそれぞれ skew でも、差が概ね対称ならパラメトリックでよい。

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3. 効果量と CI — p 値だけでは伝わらない

3.1 t 検定の効果量 — Cohen's d

差の大きさを SD で正規化した Cohen's d:

d = (x̄_A − x̄_B) / s_pooled

慣用解釈 (Cohen 1988):

`d`解釈
0.2small
0.5medium
0.8large

p < 0.05 でも d が 0.2 なら臨床的意義は小さい。n が大きいとどんな小さい差でも有意化するので、効果量を必ず併記する。Welch's t では s_pooled の代わりに √[(s_A² + s_B²)/2] を使う Glass / Hedges 系の補正版もある (Lakens 2013 が整理)。

3.2 平均差の 95% CI

p 値より informative な単一指標は 平均差の 95% 信頼区間 (CI) である:

95% CI = (x̄_A − x̄_B) ± t_{0.025, df} · SE

CI が 0 を含まなければ p < 0.05、含めば p ≥ 0.05 と等価。しかし CI は「差の大きさのレンジ」も伝える点で p 値より優れる。「LV mass の差は -3 g [95% CI: -8, +2 g]」と書けば、最大でも 8 g 程度の差しか除外できないことが読者に伝わる。

3.3 Mann-Whitney U の効果量

ノンパラ系では Cohen's d は使えない。代替:

  • Cliff's delta (δ): $-1 \leq \delta \leq +1$、$\delta = 2 \cdot U/(n_A \cdot n_B) - 1$、$|\delta|$ の閾値 0.147 / 0.33 / 0.474 (small / medium / large)
  • r = Z / √N: Z 値からの近似、0.1 / 0.3 / 0.5 が small / medium / large

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4. Mann-Whitney U と Wilcoxon signed-rank — ノンパラの 2 大柱

Mann-Whitney U の rank 付け → 群別 rank 和 → U 統計量計算の 4 ステップ可視化
図3. Mann-Whitney U の rank 計算手順 — 4 ステップ可視化 — rank 付け → 群別 rank 和 → U 統計量 の流れを 1 枚で完結させる

4.1 Mann-Whitney U (Wilcoxon rank-sum) の発想

Mann & Whitney 1947 と Wilcoxon 1945 は等価な test (歴史的に並行発見) で、現代では Mann-Whitney U test と呼ぶことが多い (scipy.stats.mannwhitneyu)。

手順:

1. 2 群 $A$ + $B$ を合わせて並べる ($N = n_A + n_B$)

2. 小さい順に rank を付ける (同順位は平均 rank)

3. 群 $A$ の rank 和 $R_A$ を計算

4. 検定統計量 $U$:

U_A = R_A − n_A · (n_A + 1) / 2
U = min(U_A, U_B)

$U$ は 「ペア $(a, b)$ のうち $a < b$ となる数」と解釈できる。$U$ の小ささ (or 大きさ) が「分布が stochastically dominant に違う」のシグナル。

4.2 「median 比較」と読むのは半分嘘

教科書で Mann-Whitney を 「median の差の検定」 と書くものがあるが、これは半分嘘である。Mann-Whitney が検定するのは stochastic dominance (=「片群から無作為に取ったら、他群より大きい確率が 0.5 と異なるか」) であって、median そのものではない。

両群の 分布形状が同じ (shape assumption) であれば、stochastic dominance は median のシフトと等価になる。だが分布形状が違うと、median が同じでも $U$ が有意になることがある。Hart 2001 (*BMJ*) が "Mann-Whitney test is not just a test of medians" として整理している。

仮定 (Mann-Whitney):

  • (a) 各群が独立
  • (b) 順序尺度以上 (ranking 可能)
  • (c) 分布形状の類似性 (これがないと結果が解釈困難)

(c) を満たさない例: 2 群とも median = 50 だが、群 A は分散小、群 B は分散大 (= bimodal)。Mann-Whitney は有意になることがあるが、これを「median が違う」と読むのは誤り。

4.3 AUC との等価性

Mann-Whitney の $U$ は ROC 曲線の AUC と直接対応する:

AUC = U / (n_A · n_B)

つまり「Mann-Whitney の検定 = AUC が 0.5 から有意に違うかの検定」。診断性能評価 (ROC) と群間比較が同じ統計の裏表であることがここから見える (本パックの ROC 記事参照)。

4.4 Wilcoxon signed-rank — 対応のあるノンパラ

paired データで差が正規でない場合の選択肢。手順:

1. ペア差 d_i = post_i − pre_i を計算

2. |d_i| で順位付け (0 のペアは除外、慣例)

3. d_i の符号に応じて rank に sign を付ける

4. 正の sign の rank 和 $W^+$ vs 負の sign の rank 和 $W^-$ を比較

仮定: ペア差が対称分布 (正規である必要はないが、対称である必要はある)。

「対称でない paired データ」(例: 半数が大きく増加、半数が変化なし) では Wilcoxon signed-rank も成立せず、sign test (差の符号のみ使う、最弱) しか正当化できない。

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5. ANOVA — 3 群以上を一度に検定する仕組み

ANOVA の SS 分解 (全変動 = 群間 + 群内) と F 比 + 効果量 η² の視覚化
図4. ANOVA SS decomposition — 全変動の分解円グラフ — SS_total = SS_between + SS_within の分解を視覚化、F = MS_between / MS_within の直感
群数増加に伴う FWER 膨張曲線と Bonferroni 補正の効果、ANOVA + post-hoc の存在意義
図7. 多重 t 検定の FWER 膨張 — ANOVA の存在意義 — 群数が増えると FWER が α から大幅に膨張すること、ANOVA が必要な理由を視覚化

5.1 なぜ多重 t 検定ではダメか

3 群 $A, B, C$ を比較するとき、「$A$ vs $B$、$A$ vs $C$、$B$ vs $C$ の 3 回の t 検定」をすると、各検定で 5% 過誤率が独立に発生し、family-wise error rate (FWER) は:

FWER ≈ 1 − (1 − 0.05)³ = 0.143

つまり「3 群とも真は同じ」でも 14.3% の確率でどこかが有意化する。群数が増えるとさらに膨張 (10 群なら 60% 超)。これを抑えるのが ANOVA + post-hoc の役割。

5.2 Fisher 1925 の ANOVA decomposition

One-way ANOVA は Fisher が *Statistical Methods for Research Workers* (1925) で導入した。全変動を「群間変動」と「群内変動」に分解する:

SS_total   = Σ_i Σ_j (x_ij − x̄..)²
SS_between = Σ_i n_i · (x̄_i − x̄..)²
SS_within  = Σ_i Σ_j (x_ij − x̄_i)²
SS_total   = SS_between + SS_within

ここで x_ij は第 $i$ 群 $j$ 番目の観測、x̄_i は群平均、x̄.. は全体平均。各 SS を自由度で割って 平均平方 (MS) にし、その比を F 統計量とする:

F = MS_between / MS_within = (SS_between / (k−1)) / (SS_within / (N−k))

ここで $k$ は群数、$N$ は全観測数。F は $F(k-1, N-k)$ 分布に従う (帰無仮説下、等分散仮定の元で)。

仮定 (one-way ANOVA):

  • (a) 各群が独立
  • (b) 各群が正規
  • (c) 等分散 (homoscedasticity) — Levene test で検証

5.3 効果量 — η² と ω²

ANOVA の effect size:

η² = SS_between / SS_total
ω² = (SS_between − (k−1)·MS_within) / (SS_total + MS_within)

η² は素朴な「群間変動の比率」、ω² はそれが小サンプルで上振れする bias を補正した版。ω²η² より小さく出る (= 控えめ)。Cohen 1988 の閾値: small 0.01 / medium 0.06 / large 0.14 (η² ベース)。

5.4 Welch's ANOVA — 不等分散対応

Welch (1951) は 2 群 t の論理を ANOVA に拡張し、不等分散下でも Type I 過誤を保つ Welch's ANOVA を提案。R の oneway.test() のデフォルト、SPSS や Python の scipy.stats.alexandergovern も同系列。

「Levene 有意なら Welch's ANOVA、有意でなければ classical ANOVA」というフローが教科書的だが、§2.3 と同じ理由で Welch's ANOVA を default にする 立場 (Delacre 2019 系) が現代的妥当性を持つ。

5.5 Kruskal-Wallis — ノンパラ ANOVA

3 群以上のノンパラ代替が Kruskal-Wallis test (Kruskal & Wallis 1952):

H = (12 / [N(N+1)]) · Σ_i (R_i² / n_i) − 3(N+1)

ここで $R_i$ は第 $i$ 群の rank 和。$H$ は近似的に $\chi^2(k-1)$ に従う。post-hoc は Dunn test (Dunn 1964) が標準。

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6. Post-hoc 多重比較 — どこに差があるか

Post-hoc 多重比較 (Bonferroni / Tukey / Dunnett / Holm / BH) を design から選ぶ decision tree
図5. Post-hoc 多重比較の選択 decision tree — Bonferroni / Tukey / Dunnett / Holm / BH をデザインから選ぶ flowchart

ANOVA で「どこかに差がある」と判明した後、どのペアに差があるか を探すのが post-hoc 検定。すべて FWER 補正の発想が異なる。

6.1 Bonferroni 補正

最も保守的:

α_corrected = α / k

ここで $k$ は比較数。例: 3 群 (3 pairwise) で α = 0.05 → 各 t 検定で α = 0.0167 を使う。

長所: 単純、どの統計検定にも適用可能。短所: 保守的すぎて power が落ちる。比較数が多い (e.g., genomics で k = 10000) と detect 不能。

[要原典確認] Bonferroni 1936 (Pubblicazioni R Istituto Superiore di Scienze Economiche e Commerciali di Firenze) の一次PDFは未確認。多くの教科書は二次引用。

6.2 Tukey HSD (Honestly Significant Difference)

Tukey 1949 (*Biometrics*) の方法。全ペア比較に特化:

HSD = q · √(MS_within / n)

ここで $q$ は studentized range distribution からの臨界値 (群数 $k$ と $df_{within}$ で決まる)。Tukey HSD は all-pairwise の FWER をちょうど α に制御する (Bonferroni より少し緩く、適切)。

仮定: 各群の n が等しい (balanced design) ことを想定して設計されている。unbalanced だと Tukey-Kramer 補正版に切り替える。

6.3 Dunnett 検定 — vs control 専用

Dunnett 1955 (*JASA*) は「control 群 vs 各処理群」の (k - 1) 個の比較に特化:

比較数 = k − 1 (Tukey の k(k-1)/2 より少ない)

control vs A, control vs B, control vs C のような design では Dunnett が Tukey より power が高い (比較数が少ないため)。臨床試験で plac vs 用量 1 vs 用量 2 vs 用量 3 のような design では Dunnett が標準。

6.4 Sidak 補正

Bonferroni の代替で、独立性を仮定して厳密計算:

α_corrected = 1 − (1 − α)^(1/k)

例: $k = 3$ で α = 0.05 → 0.01695 (Bonferroni の 0.01667 より少し緩い)。

実用上、Bonferroni と Sidak の差は微小で、Bonferroni の方が 任意の従属関係に対しても valid という頑健性で広く使われる。

6.5 Holm-Bonferroni (step-down)

Holm 1979 (*Scand J Stat*) は、p 値を昇順に並べ、段階的に補正:

順位 i (i = 1, 2, ..., k) の p 値に対して、α / (k - i + 1) と比較

ステップ:

1. p 値を昇順に並べる: $p_{(1)} \leq p_{(2)} \leq ... \leq p_{(k)}$

2. $p_{(1)}$ を $α/k$ と比較。棄却したら次へ、棄却しなければ全停止

3. $p_{(2)}$ を $α/(k-1)$ と比較、以下同様

Bonferroni と同じ FWER 制御だが、uniformly more powerful。「Bonferroni の代わりに Holm を使う」と覚えれば常に勝ち。

6.6 Benjamini-Hochberg (BH) — FDR 制御

Benjamini & Hochberg 1995 (*JRSS B*) は FWER ではなく False Discovery Rate (FDR) を制御する全く別の発想:

FDR = E[ V / R ]   (V = false rejection, R = total rejection)

ステップ:

1. p 値を昇順に並べる

2. 最大の $i$ で $p_{(i)} \leq (i/k) \cdot q$ を満たすものを見つけ、それ以下を全棄却 ($q$ = 許容 FDR、通常 0.05)

「false positive の ではなく 比率 を制御する」と言える。genomics / radiomics / brain imaging のように k が大きい exploratory study で標準。FWER 制御 (Bonferroni / Holm) は confirmatory に、FDR 制御 (BH) は exploratory に、と使い分ける。

6.7 Post-hoc 選択フロー

デザイン推奨 post-hoc
ANOVA + balanced + all-pairwiseTukey HSD
ANOVA + unbalanced + all-pairwiseTukey-Kramer
Welch's ANOVA + 不等分散 + all-pairwiseGames-Howell
Control vs 各処理 (clinical trial)Dunnett
Kruskal-Wallis 後の non-paramDunn
任意の k 比較 (FWER 制御希望)Holm-Bonferroni (Bonferroni より優れる)
exploratory (k > 20、genomics 等)Benjamini-Hochberg FDR

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7. 仮定の検証 — 正規性と等分散の落とし穴

7.1 正規性検定の限界

Shapiro-Wilk (1965)、Kolmogorov-Smirnov、Anderson-Darling などの正規性検定は n が小さいと power がない (= 検出できない) のに、n が大きいと小さな逸脱で有意化 (= 過剰検出) する。両側で実用性が低い。

具体的には:

  • $n < 30$: ほぼどんな分布でも「正規が棄却されない」(= "OK" と判定される) が、実際は判定不能
  • $n > 5000$: わずかな歪みでも有意化、すべて「非正規」と判定される

実務的指針:

  • $n \geq 30$ なら 中心極限定理 (CLT) で平均の分布が正規に近づく → パラメトリック OK
  • 小 $n$ で「Shapiro-Wilk p > 0.05 だから OK」と機械判定するのは無意味
  • QQ plot で「中心付近の概形」と「両端の歪み」を目視する方が現実的
  • ロバスト性が高い test (Welch's t, ANOVA は CLT で頑健) を選ぶ方が建設的

7.2 等分散検定の限界

Levene test (1960) は分散の等しさを検定するが、Shapiro-Wilk と同じ power 問題 を持つ。小 n では「等分散が棄却されない」が実は不等分散というケースが多い。

「Levene 有意なら Welch、有意でなければ Student」というアルゴリズムは:

  • 小 n で等分散仮定を 見逃した ら Type I 過誤が膨張
  • 大 n で等分散が 僅かに崩れている だけで Welch に切替

の両方で問題を起こす。Welch を default にする ほうが二段判定のロジックエラーを回避できる (Delacre 2017)。

7.3 球形性 (sphericity) と Repeated-Measures ANOVA

Repeated-Measures ANOVA (同一被検体で複数時点測定) は、独立性の代わりに 球形性 (sphericity) を仮定する。球形性とは「ペア差の分散が全ペアで等しい」という性質。

Mauchly test (1940) で検定するが、これも power 問題を持つ。違反時の補正:

  • Greenhouse-Geisser (1959): 保守的、df を $\hat{\epsilon}$ で乗じて減らす
  • Huynh-Feldt (1976): 中間的
  • 現代では 線形混合モデル (Linear Mixed-Effects Model, LMM) が repeated measures の標準代替 (Bates 2015, lme4)

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8. MRI 定量での実例 — どこで群間比較を要求するか

Paired design と独立 design の power 差を pre/post LV mass の同一データで対比
図8. Paired t vs independent t — within-subject 相関による power 差 — 対応データを paired で扱う重要性を power 比較で可視化

8.1 2 群 cardiac index 比較 (controls vs disease)

最も古典的。健常 controls (n = 30) vs HCM 患者 (n = 28) で LV ejection fraction を比較するなら:

  • independent Welch's t が default
  • 効果量 Cohen's d + 95% CI 必須
  • n < 30 のグループがあれば QQ plot 確認、必要なら Mann-Whitney U

「健常 EF 65 ± 5%、HCM 患者 EF 55 ± 8% → p < 0.001 だから差あり」は不十分。「差 -10% [95% CI: -13, -7%]、d = 1.5 (large)」まで書いて初めて臨床的解釈ができる。

8.2 Multi-vendor MRI 数値の inter-vendor 比較

Siemens / GE / Philips の 3 vendor で同じ被検体 (n = 30) を撮影し、T1 値を比較する場合:

  • 対応データ (同一被検体を 3 vendor で測る) → Repeated-Measures ANOVA or 線形混合モデル
  • 球形性: Mauchly test、違反なら Greenhouse-Geisser 補正
  • 不等分散 + 対応データ → mixed-effects model がより自然
  • post-hoc: Bonferroni or Holm (3 ペア = 3 比較)

別被検体での比較 (vendor A は施設 X、vendor B は施設 Y) なら independent design → one-way ANOVA + Tukey HSD (or Welch's ANOVA + Games-Howell)。

8.3 Pre/post intervention LV mass change

降圧治療前後で LV mass を比較する典型 paired design:

  • Paired t (n_pair ≥ 30 なら CLT、< 30 なら QQ plot で差の正規性確認)
  • 差が非対称なら Wilcoxon signed-rank
  • 効果量: $d_z = \bar{d} / s_d$ (paired 用 Cohen's d)
  • 95% CI of mean change を必須報告

「LV mass 治療前 220g、治療後 200g、p < 0.001」だけでは、変化量とそのばらつきが伝わらない。「平均変化 -20 g [95% CI: -25, -15]、$d_z = 0.8$ (large)」まで。

8.4 Multi-time-point CMR follow-up

baseline / 3 か月後 / 6 か月後 / 12 か月後の 4 時点で同一患者 (n = 25) を fol→ する:

  • Repeated-Measures ANOVA (sphericity 補正必須) or mixed-effects model
  • 時点数が増えるほど Mauchly violation が出やすい → Greenhouse-Geisser default が安全
  • 欠測がある場合 (途中脱落) は RM-ANOVA より mixed-effects model (lme4, lmer) が compatible
  • post-hoc: baseline vs 各時点なら Dunnett (3 比較)、全 pairwise なら Tukey HSD (6 比較)

8.5 4D Flow 指標 (Energy Loss, WSS, KE) の群間比較

健常 controls vs BAV patients の Energy Loss 比較などは、PC-MRI / 4D Flow indices の inter-vendor 同じノイズ床問題を抱える。群間差を読む前に Bland-Altman で再現性を確認 することが SCMR 2020 consensus 推奨。

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9. 典型的な誤用カタログ

9.1 「Paired データを independent t で扱った」

致命的。within-subject correlation を捨てて分散を過大評価、power が著しく低下。「3 か月後の LV mass を baseline と independent t で比較」は誤り。必ず paired t。

9.2 「3 群を pairwise t 検定の繰り返しで処理」

§5.1 の通り FWER が 14% 以上に膨張。必ず ANOVA で全体検定 → 有意なら post-hoc (Tukey / Holm / Dunnett)。「ANOVA が有意でない場合の post-hoc」も原則禁止 (例外: contrast の事前計画あり)。

9.3 「Mann-Whitney は median 比較」と読んだ

§4.2 の通り stochastic dominance の検定。形状が違うと median 同じでも有意化することを忘れがち。Hart 2001 を参照。

9.4 「Welch を default にせず、Student の等分散 t を使い続ける」

§2.3 の通り、等分散検定の power 問題で「等分散仮定が破綻していても Levene が見逃す」リスク。Welch を default にすべき が現代的推奨 (Delacre 2017, Ruxton 2006)。

9.5 「Shapiro-Wilk p > 0.05 だからパラメトリック OK」

§7.1 の通り、小 n では検出不能、大 n では過剰検出。QQ plot + 文脈 で判断、n ≥ 30 なら CLT で頑健。

9.6 「正規性が満たされないからノンパラ」を機械適用

ノンパラは効果量解釈が困難、CI が出にくい、Mann-Whitney は median 比較ではない、など独自の落とし穴あり。「パラ vs ノンパラ」を分布形状だけで決めるのではなく、研究の問いn で総合判断。

9.7 「p 値だけで結果を語る」

§3 の通り、効果量と 95% CI を必ず併記。p < 0.05 でも d が 0.1 なら臨床意義は乏しい、p > 0.05 でも d が 0.5 で n 不足の可能性。

9.8 「Bonferroni を採用すれば安全」

§6.1 の通り、Bonferroni は保守的すぎて power が落ちる。Holm-Bonferroni (uniformly more powerful) を選ぶ。exploratory 文脈なら FDR (Benjamini-Hochberg) を検討。

9.9 「Sphericity 検定が有意でないから RM-ANOVA OK」

Mauchly test の power 問題で、有意でない = 球形性成立とは限らない。Greenhouse-Geisser 補正を default 適用 か mixed-effects model に移行する方が安全。

9.10 「効果量が大きいから臨床的に意味あり」

逆方向の誤用。d = 1.0 でも、その差が「LV EF で 1%」なら臨床的に意味なし、「LV EF で 10%」なら有意義。効果量 + raw 差の単位 + 臨床判断閾値 の三位一体で読む。

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10. 解析フロー — 1 つの dataset から何を出すか

群間比較の標準報告は:

1. 記述統計: 各群の n / 平均 / SD / median / IQR / range

2. 分布確認: QQ plot (小サンプル時)、必要なら Shapiro-Wilk (補助のみ)

3. 仮定確認: Levene test (補助)、ただし結果に依存させない

4. 検定の選択ロジックを明示: 「2 群独立、連続量、n = 30 で CLT 適用 → Welch's t を default 適用」

5. 検定統計量 + df + p 値: 例 t(47.3) = 2.85, p = 0.006

6. 効果量: Cohen's d or Cliff's δ + 慣用解釈ラベル

7. 95% CI of 平均差 or effect size: 必須

8. 多群なら post-hoc: 補正方法を明示 (Tukey / Holm / Dunnett / BH)

9. 臨床的解釈: 効果量 + raw 差を clinical threshold と比較

10. 限界: n、分布、ロバストネス、検出力不足の可能性

これら 10 項目をすべて報告して初めて「群間比較として通る」。p 値だけ、効果量だけ、CI だけは情報不足。

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11. 次の記事への橋

本記事は次の atomic note に分解する (詳細は zk_notes/):

  • t 検定の仮定と 3 バリアント (one-sample / independent / paired)
  • Welch's t を default にすべき論拠
  • Paired t と within-subject correlation
  • Mann-Whitney U の rank 計算と stochastic dominance
  • ANOVA の SS decomposition と F 比
  • Repeated-Measures ANOVA の sphericity 問題
  • Post-hoc 多重比較の選択 (Bonferroni / Tukey / Dunnett / Holm / BH)

連続記事の予定:

  • Linear Mixed-Effects Model: RM-ANOVA の現代的代替、欠測対応
  • Permutation / Bootstrap test: 仮定が破綻するときの最終代替
  • Equivalence test (TOST): 「差がない」を能動的に示す枠組み
  • Bayes Factor: 帰無の証拠を能動的に評価する代替フレーム

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公開対象 / 安全性

  • 施設名、患者情報、内部契約情報、メール、個人情報は含まない
  • 一次文献の DOI / PubMed は references.md に集約
  • 画像生成プロンプトは image_prompts.json に分離 (Codex 側で GPT Image2 実行)
  • HTML 化、Cloudflare deploy、Discord 通知は Codex 担当